「起業したい」という気持ちだけは、いつもそばにあった。
でも、いざ考え始めると――「何を始めたらいいのか」がまったく見えてこない。
本屋のビジネス書コーナーに並んでいる「すぐに稼げる副業10選」や「これからのトレンド」を読んでも、どれも自分には遠い世界に感じた。
「私には向いていないかもしれない…」
そんな言葉が、心の中でぐるぐると回り続けた。
焦りだけが募る日々――誰もが輝いて見えた
周りを見渡すと、誰もが何かしらの形で行動を起こしている気がした。
SNSには、「念願の独立を果たしました!」というキラキラした投稿が溢れている。
同級生は自分でカフェを始め、別の友人はコンサルタントとして独立を果たした。
「私だけが取り残されている…」
そう感じるたびに、胸が締め付けられるような気持ちになった。
「行動しなきゃ」と焦るほど、迷いが深まる
「何かしなければ」という焦りが、日に日に大きくなっていった。
深夜、スマホの画面を眺めながら「起業 アイデア」で検索を繰り返した。
- 「スキルシェアサービス」
- 「オンライン講座の販売」
- 「地域密着型のビジネス」
どれも魅力的に見えたが、自分が実際にできるイメージは全く湧かなかった。
「結局、何がしたいのか自分でもわからない…」
頭の中は、ただ混乱していくばかりだった。
“ありふれた解決策”に手を出しても、何も変わらなかった
そんな中、私が最初に手を取ったのは「起業セミナー」だった。
参加費を払い、ホテルの会議室で開催されたイベントに足を運んだ。
講師は元経営者で、華やかな実績を持つ人物だった。
「自分の強みを活かせば、必ず成功できます!」
そう力強く語る姿に、私は希望を感じた。
ワークシートを埋めても、”自分の強み”が見つからない
セミナーでは、「自己分析ワークシート」が配られた。
- あなたの得意なことは?
- これまでの経験で成功したことは?
- 周りから褒められることは?
真剣に向き合い、必死にペンを走らせたが――正直、どれもピンとこなかった。
「得意なこと…普通にこなせることはあるけれど、人に提供できるレベルなんだろうか?」
ワークシートの空欄を見つめながら、またあの不安が襲ってきた。
「トレンド」を追いかけても、結局は焦るだけだった
次に試したのは、「流行っているビジネスをやってみること」だった。
- 動画編集
- SNS運用代行
- ライティング業務
どれも「需要がある」と聞いて、クラウドソーシングのサイトに登録した。
最初はやる気に満ち溢れていた。
でも、実際に案件を見てみると、条件が厳しく、低単価のものばかり。
「この作業量で、この報酬額…? これで起業と言えるんだろうか…」
気づけば、ただ疲れてしまっていた。
起業塾に入ったけれど、余計に迷いが深まった
「このままではダメだ」と感じた私は、ある起業家の「起業塾」に申し込んだ。
受講料は決して安くはなかったが、「これで変われるなら」と貯金を切り崩した。
塾では、実践的なノウハウが教えられていた。
- ビジネスモデルの作り方
- マーケティングの基本
- ブランディングの方法
確かに勉強にはなった。でも――肝心の「自分が何をするか」が決まらないまま、時間だけが過ぎていった。
「結局、私には何もないんだ…」
塾の最終講義の帰り道、そんな言葉が心の中で響いていた。
「私には起業なんて無理なのかもしれない」――絶望の底で
どんな方法を試しても、「これだ!」と思えるものには出会えなかった。
セミナーにも行った。自己分析もした。流行りのビジネスも試した。
でも――何も形にならなかった。
「きっと私には、起業する才能なんてないんだ…」
ベッドに横たわりながら、そう結論づけてしまった。
誰にも言えない孤独感――焦りと劣等感だけが残った
起業の夢を語っていた友人には、進展がないことを言えなかった。
「そういえば、あのビジネスどうなった?」
そう聞かれるたびに、曖昧に笑ってごまかした。
家族には「忙しい」と言い訳をして、自分の部屋に閉じこもることが多くなった。
「何も成し遂げられない自分が、情けない…」
誰にも相談できないまま、心だけがどんどん重くなっていった。
転機は、一つの考え方との出会いだった
そんなある日、偶然目にしたビジネス書の中で、ある一節に出会った。
それは、顧客開発理論やリーンスタートアップの考え方を紹介する内容だった。
「優れたビジネスアイデアは、顧客の問題から始まる」
その言葉が、胸に突き刺さった。
「自分が何をしたいか」ではなく、「誰の何を解決するか」
これまで私は、ずっと「自分が何をやりたいか」「自分の強みは何か」ばかりを考えていた。
でも――その考え方が教えてくれたのは、まったく逆の視点だった。
「顧客が困っていることを見つけ、それを解決する。それがビジネスの原点だ」
その瞬間、頭の中の霧が晴れていくような感覚があった。
「そうか…起業って、”自分探し”じゃなくて、”誰かの役に立つこと”から始まるんだ」
身近な人の”困りごと”を聞いてみた――そこから見えたもの
その考え方に触れた翌日、私は意識的に「周りの人の困りごと」を聞くことにした。
カフェで友人と会ったとき、こう尋ねてみた。
「ねえ、最近何か困っていることってある?」
友人は少し考えた後、こう答えた。
「うーん…実は、仕事が忙しすぎて、家の片付けがまったくできていないんだよね。業者に頼むほどでもないけど、誰かに手伝ってほしいとは思ってる」
何気ない会話の中に、”ビジネスの種”があった
その言葉を聞いた瞬間、私の中で何かが動いた。
「片付けのサポート…確かに需要がありそうだ」
その後も、家族や知人に同じように「困っていること」を聞いてみた。
- 母親:「パソコンの使い方がわからなくて、いつも困っている」
- 先輩:「子供の習い事の送迎が負担で、誰かに頼めたらと思う」
- 近所の人:「庭の手入れが大変で、定期的に手伝ってくれる人がいたら助かる」
どれも、”小さな困りごと”だった。
でも――その”小さな困りごと”こそが、ビジネスになるのだと気づいた。
自分の経験とスキルを「誰かの困りごと」に重ねてみた
次に私は、自分がこれまで培ってきたことを振り返ってみた。
- 以前、実家の引っ越しを手伝ったとき、「整理が得意だね」と言われたこと
- 友人のSNS投稿を手伝ったとき、「わかりやすくまとめてくれて助かった」と感謝されたこと
- アルバイトで接客をしていたとき、お客さんから「丁寧で安心する」と褒められたこと
それぞれは、特別なスキルではなかった。
でも――「誰かの困りごと」と照らし合わせたとき、それは「価値」に変わった。
「片付けサポート×丁寧なヒアリング」という小さなビジネスが生まれた
私が最初に始めたのは、「忙しい人のための片付けサポートサービス」だった。
プロの整理収納アドバイザーほどの知識はなかったが、
- 依頼者の話をじっくり聞く
- どんな暮らしを理想としているかを一緒に考える
- 無理なく続けられる仕組みを提案する
そんな「寄り添う姿勢」を大切にした。
最初の依頼者は、友人の紹介だった。
3時間ほどかけて、リビングとキッチンの片付けを一緒に行った。
終わったとき、依頼者がこう言ってくれた。
「こんなにスッキリするなんて思わなかった…本当にありがとう。また頼んでもいい?」
その言葉を聞いた瞬間、涙が出そうになった。
「私にも、誰かの役に立てることがあったんだ」
ビジネスが広がり始めた――口コミが次の依頼を生んだ
最初の依頼者が、SNSで感想を投稿してくれた。
「忙しくて部屋が荒れていたけれど、手伝ってもらって本当に助かりました!」
その投稿を見た別の人から、「私も頼みたい」とメッセージが届いた。
次第に、友人の友人、知人の紹介という形で、依頼が広がっていった。
「小さく始めて、少しずつ広げる」という自信
最初は週に1〜2件のペースだったが、3ヶ月後には月に10件以上の依頼が入るようになった。
報酬も、最初は「お礼程度」だったが、今では安定した収入源になっている。
さらに――依頼者の中には、「定期的に来てほしい」という声もあり、月額サポートのプランも始めた。
「起業って、こうやって形になっていくんだ…」
自分が歩いてきた道を振り返ったとき、そう実感した。
「起業のアイデア」は、自分の外側にある
今、私が確信していることがある。
それは――起業のアイデアは、自分の中を掘っても見つからないということ。
それは常に、誰かの”困りごと”の中に眠っている。
「何がしたいか」ではなく、「誰の何を解決するか」
以前の私は、「自分が何をやりたいか」ばかりを考えていた。
でも――それは、終わりのない迷路だった。
本当に大切なのは、
- 誰が困っているのか?
- その人が本当に必要としているものは何か?
- 自分には、どんな形でそれを提供できるか?
この3つを、徹底的に考えることだった。
今、起業に悩んでいるあなたへ――最初の一歩の踏み出し方
もしあなたが、「起業したいけれど、アイデアが何も浮かばない」と感じているなら――
まずは、こう問いかけてみてほしい。
「身近な人が困っていることは何だろう?」
それは、友人かもしれないし、家族かもしれない。あるいは、SNSで見かけた誰かの悩みかもしれない。
ステップ1:「困りごと」を10個リストアップする
まず、紙とペンを用意して、以下を書き出してみよう。
- 友人や家族が、日常で困っていること
- 自分がこれまで「これ、面倒だな」と感じたこと
- SNSやネットで「〇〇で困っている」という声
最低10個、書き出してみてほしい。
ステップ2:自分の経験・スキルと照らし合わせる
次に、自分がこれまで培ってきたことを振り返ってみよう。
- 仕事で身につけたスキル
- 趣味や日常で得意だと感じること
- 人から「ありがとう」と言われた経験
それを、先ほどリストアップした「困りごと」と照らし合わせてみる。
ステップ3:まずは1つ、小さく試してみる
完璧なビジネスプランを作る必要はない。
まずは、1つの困りごとに対して、
- 自分ができることを提案してみる
- 無料または少額で試してみる
- 相手の反応を聞いてみる
それだけで十分だ。
起業は、大きなアイデアからではなく、小さな一歩から始まる
私自身、最初は「何も思いつかない」と絶望していた。
でも――今振り返ってみれば、アイデアは最初から目の前にあった。
ただ、それに気づくための「視点」が欠けていただけだった。
「誰かの役に立つこと」が、ビジネスになる
起業とは、特別な才能やアイデアがなければできないものではない。
それは――誰かの困りごとに気づき、それを解決しようとする姿勢さえあれば、誰にでも始められる。
まとめ:アイデアが浮かばないあなたが、今日からできること
最後に、今日からあなたができることをまとめておこう。
- 身近な人に「困っていること」を聞いてみる
- 自分の経験やスキルを書き出してみる
- 両者を結びつけて、小さく試してみる
それだけで、あなたの起業は動き始める。
「起業したいけれど、何も思いつかない」
そう感じていたあなたが、半年後には、
「自分にもできることがあった」
と、胸を張って言える日が来ることを、心から願っている。
あなたの起業の一歩が、今日から始まりますように。
